言上真舟/Forest of Souls ( http://lights-gallery.com/archive/2022/10/1514/ )の展示空間にて、2回目の企業様向け対話型鑑賞ワークショップを開催しました。
対話型鑑賞とは、目の前の作品をじっくりと観察し、自身の心の内に湧く感情や、巡る思考と向き合う、作品鑑賞方法の一つです。作品タイトル、素材、制作年、作者についてなどの情報はあえて伏せたまま、時間をかけて作品そのものと対峙することで、「よく分からない」と思考を閉ざしてしまいがちなものであっても、自身が主体となって目の前の出来事を認知し、解釈を生み出していく思考へと導かれていきます。
今回は、1階の空間全体に広がるインスタレーション作品を対象に、約1時間かけて鑑賞しました。前回は、「対話型鑑賞とは何なのか、まずは体感する」ことから始めたのに対し、今回は「考え方/感じ方の多様性、自身の思考に気づく」を目標としたプログラムを実施しました。
最初は、対話型鑑賞についての振り返りから。対話型鑑賞では、正解のないアート作品を前に、自身の感性と思考を駆使して作品を解釈していきます。鑑賞中に、「作品の観察→思考の言語化→他者の意見を聞く→思考する→再び観察する・・・」というプロセスを何度も経ることによって、自身の思考と向き合い、作品理解を深めていくのが特徴です。対話型鑑賞のファシリテーションを通して、濃密な思考の時間をお過ごしいただくことで、観察力や言語化力のほか、自己肯定感、コミュニケーション力、多様性理解、創造力など、さまざまな効果があるといわれています。こうしたお話を、前回実施した内容やご質問への回答を交えながらお聞きいただき、対話型鑑賞の仕組みと効果を改めてご認識いただきました。
導入のあとは、早速鑑賞タイムに入ります。前回は大きな彫刻作品1点を鑑賞したのに対し、今回は、空間全体に施されたインスタレーション作品を鑑賞いただきました。ご参加の皆さまにとって新たなチャレンジとなる作品ではありましたが、前回時間をかけて作品と向き合う体験をしていただいたことで、作品と、そして自身と向き合う心の準備ができているご様子でした。そこで少し通常より長めに時間を取り、まずはお一人で、さまざまな角度からじっくりと空間全体を観察いただきました。
ある程度ご覧になられたところで、作品に対して気づいたことや、感じたことをシェアいただきました。序盤では、「まだ考えがまとまらないけれど……」と仰りながら、思考途中の考えをご自身の中でしっかりと受け止め、丁寧に言語化させていく姿が印象的でした。最初は作品や影の形に着目され、何に見えるか連想するところから、作品を紐解かれていきました。そこから、さらに気づいたことがないか、何度も鑑賞のプロセスを繰り返していくうちに、段々と視点が広がっていきました。「この作品は未来よりも過去を表現しているのではないか」「ある瞬間で時間が止まっているようにみえる」といった時間軸のお話や、「不安定さを感じる」「流れを感じる」など作品から感じ取れる感覚、「魂が浮遊しているよう」「(先のコメントに付随して)これらは中身が空の器で、魂か何かが入るのではないか」といった作品から受け取るイメージまで、話が発展していきました。
たくさんの意見が重なって作品世界が広がったところで、最後に一つ、ワークを行いました。それは、「作品からどんな音、あるいは音楽が聴こえるか?」というテーマでお話するというもの。「音」をテーマに発想を飛躍させて、自分のこれまでの思考を揺るがす体験です。加えて、発表いただく際には、前の発言者の意見を要約し、良かった点をお話いただきました。他者の意見を自分で言い換えることで、真剣に耳を傾ける、意見の背景を理解しようとする、ということにもチャレンジいただきました。
発想を転換したことで、これまで話題にならなかった作品が取り上げられたり、「屋外でこの作品をみてみたら?」と空間を変える発想が生まれたりしました。また、他者の発言の要約では、「〜と理解したけれど、合っていますか?」と、相手の立場に立って、意図を確認される場面も見られました。
今回は約1時間のなかで、前回よりもどっぷりとご自身の思考と向き合っていただくことと、そこから、視点を変えてみること、他者の意見を意識的に聞くこと、を体感いただきました。対話型鑑賞では、回を重ねるごとに、自分がどのような考え方をする人間なのかが垣間見えたり、自分にはなかった考え方が他の参加者から聞けたりと、新しい発見が得られます。今回のワークショップを通して、皆さまの中で少しでも気づきや発見があれば幸いです。
ご参加誠にありがとうございました。
2023年1月に3回目の企業様向け対話型鑑賞ワークショップを開催予定です。