会期:2020年6月19日〜7月19日
http://lights-gallery.com/archive/2020/06/593/
布や紙、木板を層のように重ね、刻々と流れる時間や空間そのものを絵画作品として表現する森綾乃と、三重県に古くから伝わる「伊賀くみひも」の組紐職人として活躍する松島康貴による2人展「A∩B」。
絵画作品を制作する森と、組紐職人の松島は、平面作品と紐(立体物)という作品の造形の違いや、作家と職人という制作の立場の違いなど、一見すると対照的な2人にみえますが、そこには制作における共通した意識があります。それは、ある場所に流れる空間や時間を作品に取り込むこと。森の制作のテーマであり、松島が組紐を手渡す相手にあわせて制作するための重要な点でもあります。
展示会場1階では、松島の巨大な組紐作品が空間を自由に縫うように吊るされ、それに呼応するように森の平面作品が配置されます。空間の高低や紐がつくりだす影を生かした構成は、2人の作品の対照的な一面を魅せると同時に、空間のなかで互いに心地よく影響しあい、作品同士のつながりを静かに浮かび上がらせています。
そして、会場2階では2人のコラボレーションならではの、どこか懐かしいインスタレーションが展開します。大小さまざまな薄紙の紙風船が床にちりばめられ、紙風船のなかには、しなやかな動きをそのまま閉じ込めるように、組紐が入っています。折り紙による紙の立体的な重なりと、鮮やかな組紐がうっすらと見える様子は、まさにある一瞬を作品に閉じ込めたようです。
今回の展示は、松島による巨大な組紐作品の制作からスタートしました。松島自身初めての挑戦となった本作は、通常の何倍も太く長い紐を組むために、道具を揃えるところから始まり、試行錯誤のなか、異例の2人がかりでの組み方にたどり着きました。こうして苦労の末にできあがった紐は、展示されて初めて作品として完成します。常に何かの道具として使われる紐は、使い手や縛るものとの関係が切っても切りはなせません。本作も、会場特有の梁や、窓からの光との関係性を繊細に汲み取り生かしたインスタレーションとなっています。
松島の組紐作品を受けて、森は今回初めて、様々な形で作品に紐を取り入れています。森がつくりだす、紙や木板や布を重ねた層のなかに、松島が用意した紐がステッチのように縫われたり、貼付けられるなどして、平面上に新しいリズムが生まれています。紐をトレースした紙の模様や、紐の凹凸が作品に組み込まれることで、見る人に一層多様なイメージを連想させます。
空間そのものを表現する森の作品からは、どこか遠くの景色をみているような広い視点が感じられ、紐のスケールを拡大した松島の作品には、細部を拡大してみているような視点があります。様々な対比とともに、空間を通してつながりあう2人の展示です。