・・・料理のための器、盤・・・
知多半島の中央に位置し、伊勢湾に面したスローな街・常滑。 海から吹き込む風、大きく広がる空、細い路地に建ち並ぶ黒塗りの壁が印象的な家々、 そして、そこから聞こえる暮らしの声。 まるで違うものさしで時間が刻まれているような錯覚をおぼえ、ゆっくりと積み重ねられた時が今も続いています。 これまで急須や土管・盆栽鉢で栄えてきた産業がいま危機的状況にあります。 時代の変化についていけなかった、といえば簡単ですが、でも本当にそれでよいのか。 自問自答の中、ふと足元を見ると土、職人技、風土、ここにしかないものがありました。 これらをもう一度世に問いたい。ここからすべてがはじまりました。 窯元、作家、職人、立場が違えど思いを同じにする仲間が集まり、試行錯誤の日々。 常滑の土や原料の可能性を突き詰めた先に、知らなかった世界が見えてきました。 これまで急須に使われてきた土を新たに“盤”という料理のための器にかえ、地場産業の新しいカタチに挑戦する「盤プロジェクト」。先人が残した土を抱き、未来に向けて一歩踏み出します。
– 佳 窯 –
●土とチャラ 盤の土は、急須に使われるものと同じ細かい粒子が特徴です。 だからこそ、うっすらと艶のあるマットな表情や、つい手に触れたくなるなめらかな触り心地に。 そして、盤のカラーバリエーションを可能にしたのが “チャラ”。 表面にチャラがけすることで、様々な色を生み出すことのできる常滑に古くから伝わる原料です。
●職人の手技 常滑では土を扱うことを“土をかまう”といいます。 一般的な陶土や磁土とは違う急須の土で、均整のとれたフォルムやシャープさを手で作り上げるには、 集中力と繊細さが求められます。 また、盆栽鉢でも栄えた常滑には、たたら作りの高度な技術もあります。 急須の繊細な手技と盆栽鉢の技術。この2つを有する職人たちがいたからこそ、盤が完成しました。
●貝(牡蠣殻)による装飾 海に面した常滑で受け継がれてきた技法“藻がけ”。海藻をのせて焼くことで模様が生まれます。 土に表情をつけて華やかにしたいという先人の知恵から生まれたこの技法を活用し、 藻に代わって牡蠣の殻を使った装飾が盤の特徴です。 伊勢湾では海苔の養殖が盛んで、海苔の種付けのために牡蠣殻が使われます。 種付けの役目を終えた殻を高温で焼いて粉末状にし、盤の表面にふりかけると、 まるで静かに雪が降り積もったかのような繊細で上品な模様が浮かび上がります。 海とともに歩んできた常滑の歴史を感じられる景色が器に広がります。