目の前に広がる景色の「奥」のことに興味が湧く。今見ている景色というのは、これまでこの場所にできた記憶が「層」を成し、その時間性の絡み合わせで成り立っている。風景の中はすべての層ごとに異なる時間が流れていて、またその層と層の間にも時が詰まっていると考える。そういう考え方でもう一度目の前の景色をじっくりと眺めると、奥の層がかすかに透けて見えるかのような、または遠くに広がる景色の向こうに過去の断片が浮かび上がるような感覚になる。
哲学者ミシェル・フーコーが提唱した「ヘテロトピア Heterotopia」は、実在しない理想郷を意味する「ユートピア Utopia」と対比して、実在する世界の中に位置付けられながらすべての場所の外にある、一種の「現実化されたユートピア」と見なされてきました。長年、私が興味を持って観察してきた工事現場は、同じ空間に新しい建物が建てられたり取り壊されたりすることで、その一箇所にさまざまな時間性が共存すると同時に、ある意味では今見えている形もかつての残像かもしれないと思える。その観点から考えると何も実存しない虚無の空間として見なすこともできるだろう。そしてその考え方は、工事現場を「ヘテロトピア」の空間として読み解く一つの手がかりとなる。工事現場を見ていると、私が今見ているのは何だろうと混乱してしまうことがある。つまり、そこに下ろされた幕の奥から映る影がそこに存在するものを想像させるけれど、いずれ消えていくものだと思うと、それが本当に存在するものかどうか疑問に思うようになるのである。結局、私たちが今見ているもの全ては過去と現在、未来が境界なく行き交う時間の残像なのかもしれない。
〈略歴〉
1992 韓国 ソウル生まれ
2016 梨花女子大学 造形芸術学部 西洋画科 卒業
2019 多摩美術大学 テキスタイルデザイン学科 研究生
2021 多摩美術大学 博士前期課程(修士) テキスタイルデザイン領域 修了
2024 多摩美術大学 博士後期課程(博士)美術研究科 修了、博士号取得
〈個展〉
2021 「時間が宿る紙」(裏参道ガーデン/東京)
2021 「こころ逍遥」(ギャラリー蓮衣/神奈川)
2021 「ホワイトノイズ」(埼玉)
2022 「夜は短し 歩けよ乙女」(仲町の家/東京)
2022 「着せ替え風景」(金柑画廊/東京)
2024 「時の残像」(Lights gallery/愛知
〈グループ展〉
2022 「Narrative on Medium」(Space B-E/韓国 ソウル)
2022 「LINK展19」(京都市京セラ美術館/京都)
2022 「第34回 今立現代美術紙展」(野外展/福井)
2023 「Shape of Time」(projectify/韓国 ソウル)
2024 「소요지 逍遥紙 ; 너른 종이의 길」(중간지점 둘/韓国 ソウル)