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大西佑一・植村宏木 | 線に立つ / Standing on the Border

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故郷の熊野の記憶を、那智黒石を用いて土で表現する大西。身の回りにある、見えないけれど確かに意識することができる”もの”を表そうとする植村。目には見えないものを深く見つめ、可視化させようとする二人の作品には、見えないはずの何かがそこで静かに呼吸をしているような、柔かな動きを感じることができます。それは、自身の記憶や、空間のなかに漂うものを形に留めようとすることで生まれる、揺らぎともいえるかもしれません。

大西は、故郷である熊野で産出される那智黒石を用いて作品を制作しています。那智黒石は名前の通り黒色の石ですが、時に釉薬として使うことで、淡い翡翠色のような色味に変化します。記憶のなかにある故郷の懐かしい風景や光景が、熊野の石を媒介として、様々な形や色を伴っていく。制作の過程で現れる形を丁寧に見つめ、偶然現れる形をも生かすことによって完成する作品は、見る人それぞれに、懐かしい記憶を連想させる余白を秘めているようです。

植村の作品は主にガラスを素材として展開されます。目に見えないけれど確かに意識することができる”もの”を形にする植村にとって、ガラスもまた、確かな存在でありながら、可変的で捉えどころのないものという共通項があります。植村のいう”もの”とは、時の重なりや、光がもたらす空気感などによって認識される、空間のなかの気配のようなものです。作品を通して、普段無意識に認識しているそういった”もの”を、意識的に捉え、みることで、自身の内側にある感覚と、空間に存在する”もの”の実体が垣間みえるのかもしれません。

自身のなかにある記憶や風景、空間に漂う空気、気配、光をみつめて、形を与えていく。素材と向き合い、形のないものをつなぎ留めるようにして生まれる作品からは、確かにそこにある何かを見ることができます。個人の記憶や感覚を頼りにしていたはずのものは、制作の過程で深く研ぎすまされ、作品を見る私たちの、誰しもが持つ原初感覚として語りかけてくるようです。

 

 

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